社員の中に、度々、遅刻や欠勤をし、また上司の指示に従わなかったりと、職場の風紀を乱している者がおります。 |
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今回の社員の行動が、解雇をするのに相当だと判断されない場合、争いになった際には、解雇が無効と判断される可能性もあります。 判例上、解雇権の濫用になるか否かの判断要素としては、 1.解雇に合理性または相当の理由があるか といったことがポイントとなります。 |
解雇権濫用が争われた裁判で、解雇が客観的に合理性を欠き、社会通念上相当とは認められないと判断された代表的裁判例として次のものがあります。
高知放送事件(最高裁二小 昭和52・1・31判決)
<事件のあらまし>
労働者Xは、放送事業を営むY会社のアナウンサーであった。昭和42年、Xは2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごしたため、午前6時からの定時ラジオニュースを放送できず、放送が10分間と5分間中断された。また、Xは2度目の放送事故を直ちに上司に報告せず、後に事故報告を提出した際に、事実と異なる報告をした。
Yは、上記Xの行為につき、就業規則15条3項の「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」との普通解雇事由を適用してXを普通解雇した。Xは解雇の効力を争い提訴した。
<判決の概要>
Xの行為はYの就業規則の普通解雇事由に該当する。しかし、普通解雇事由がある場合にも、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる。
Xの起こした放送事故はYの対外的信用を著しく失墜するものであるが、
1.本件事故はXの過失によるもので悪意や故意によるものでない
2.先に起きてXを起こすことになっていたファックス担当者が2回とも寝過ごしており、事故発生につきXのみを責めるのは酷である
3.放送の空白時間はさほど長時間とはいえない
4.Yは早朝ニュース放送の万全を期すべき措置を講じていない
5.Xはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も悪くない
6.ファックス担当者はけん責処分を受けたに過ぎない
7.Yにおいて過去に放送事故を理由に解雇された例がない
などの事実に鑑みると、Xに対し解雇をもってのぞむことはいささか過酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。したがって、本件解雇を解雇権濫用として無効とする。