顧問先からの相談の中で
「複数の会社の取締役をやっているが、全ての会社の社会保険に加入するのか?」
「役員報酬を支払っているが、実際には月に1日しか仕事をしていない。こういう人も社会保険に入らなければならないのか?」
という質問をいただくことがあります。
今回は、こういう人たちが社会保険資格を取得する対象なのかどうかを考えていきます。
まず、基本的には、法人の役員はその会社の社会保険に加入することとなっています。
※行政通達(昭和24年7月28日保発第74号)「法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい」
しかし、実際には、月に1度しか会社に来ない「非常勤役員」と呼ばれる人がいますし、中小企業においては、代表者の家族や友人などの、いわゆる「形だけ、名前だけの取締役」も存在します。
このような人たちの取扱いはどうなるのでしょうか?
最近では、この「労務の対象として報酬を受けている者」についての具体的な判断として、日本年金機構より以下の通知がなされています。
【日本年金機構本部から示された判断材料】
労務の対償として報酬を受けている法人の代表者又は役員かどうかについては、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつその報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払を受けるものであるかを基準として判断されたい。
判断の材料例
1.当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。
2.当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。
3.当該法人の役員会等に出席しているかどうか。
4.当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。
5.当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。
6.当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。
なお、上記項目は、あくまで例として示すものであり、それぞれの事案ごとに実態を踏まえ判断されたい。
参考書面はこちらをクリック→(PDF)
実際の確認の際は、上記の①~⑥を参考にして、個別の事案ごとに被保険者とすべきかどうか総合的に判断されることとなっています。
また、日本年金機構の疑義照会(下記参照)においては
「以上のことから、疑義照会回答の判断の材料例は、一例であり、優先順位づけはなく、複数の判断材料により、あくまでも実態に基づき総合的に判断してください。なお、疑義が生じた場合は、実態を聞き取ったうえで具体的事例に基づき照会してください。ご照会の事例においては、「常用的使用関係」と判断できる働き方であれば、被保険者資格を認めて差支えありません。」
と述べられており、具体的事例が出てきた際に、6つの判断材料例も踏まえ、個別に年金事務所に相談・確認しておくことがよろしいかと思われます。
◆参考 日本年金機構 疑義回答(平成23年10月公表分)
【質問】
1.代表者は仮に不定期な出勤であっても(どこにいても)、役員への連絡や職員への指揮命令はできると思われますが、定期的な出勤がひとつの条件でしょうか。
2.役員が経営状況に応じて報酬を下げる例は多くあり、役員報酬は最低賃金法に当てはまらないため、中には「数円」というところもあります。労務の対価として経常的に受ける報酬が「月に数円」の場合、社会保険への加入はできないのでしょうか。報酬が社会通念上労務の内容に相応しい金額(社会保険へ加入できる最低額)とは具体的にいくらでしょうか。
3.「実費弁償程度の水準にとどまっていないか。」とありますが、実費弁償程度として対象になるのは主に通勤費(手当)のことでしょうか。
通勤手当をもって役員報酬としている場合、「通勤手当は報酬に含め、実費弁償的なものと異なり報酬に含める」と解釈されていますが、(上記 2.と同様)社会保険への加入対象にならないのでしょうか。また、加入できるとして通勤手当(役員報酬)の額が変更となった場合は固定給の変動には当たらないのでしょうか。
【回答】
1.については、事業所に定期的に出勤している場合は、「法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものである」との判断の要素にはなりますが、本来法人の代表者としての職務は事業所に出勤したうえでの労務の提供に限定されるものではないことから、定期的な出勤がないことだけをもって被保険者資格がないという判断にはならないと考えます。
定期的な出勤は、経常的な労務の提供を判断する一つの要素であり、定期的な出勤がないことだけをもって、被保険者資格がないとするものではありません。
2.については、昭和 24 年 7 月 28 日保発第 74 号通知で「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」とされていますが、一方、「役員については、ご照会の事例のように経営状況に応じて、給料を下げる例は多く、このような場合は今後支払われる見込みがあり、一時的であると考えられるため、低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない」ことから、総合的な判断が必要であり、最低金額を設定し、その金額を下回る場合は、被保険者資格がないとするのは妥当ではありません。
また、疑義照会回答については、一般的な例を示しているものであり、社会通念上、ご照会の事例のように業務の内容に対して、1 円の報酬しかないなど内容に相応しいものかどうか疑わしい場合は、報酬決定に至った経過、その他「常用的使用関係」と判断できる働き方(多くの職を兼ねていないかどうか、業務の内容等)であるかなどを調査し、判断してください。
3.については、実費弁償程度の水準については、主に会議に出席するための旅費、業務を遂行するために必要となった経費について、一旦、立替払いし、これに対して、事業所が弁償等のみのために支払する費用をもって報酬としている場合を想定しているものであり、もともと報酬ではないので、「法人の経営に対する参画を内容とする労務の対価」には、該当しないと考えます。
ただし、この弁償等行う金額を超え、定期的に支払われているような場合は、報酬と見るべきと考えます。
以上のことから、疑義照会回答の判断の材料例は、一例であり、優先順位づけはなく、複数の判断材料により、あくまでも実態に基づき総合的に判断して下さい。
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