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がん治療と仕事の両立

2020年10月1日

昨今は、日本人の2人に1人が癌に罹ると言われていますが、当事務所の全顧問先の従業員の方々を見渡しましても、働きながら癌の治療を受ける人が少しずつ増えてきているように思われます。

国立がん研究センターの資料では、癌に罹患する人数は「男女とも50歳代くらいから増加し、高齢になるほど高い」となっていますので、会社で働く人が癌に罹っている割合は罹患者全体の数%程度と思われます。

( 参照URL https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

しかし、今後、定年の引上げや継続雇用の延長が進んでくると、就労者における癌の罹患者の割合は大きくなってくることが予想されます。また、今後は40歳以下の人口が減少していきますから、50歳代、60歳代の従業員が会社を支えていく役割が今よりも大きくなることも予想されます。特に、中小企業おいては従業員の高齢化が大企業よりも進んでいますから、仕事を辞めずに癌の治療を進めていくことが、企業経営においても重要な役割を果たすことになります。

 

治療と仕事の両立においては、以下の課題が考えられます。

① 周りの従業員の理解不足

② 欠員の補填、業務分担への配慮

③ 会社制度(休暇・休職制度、就業時間等)の整備

④ 長期休業の際の復職許可の判断

⑤ 会社の経済的負担

⑥ 産業医との連携のとり方

⑦ 休職期間中のフォローの仕方

 

①周りの従業員の理解不足
他の病気でも同じことが言えますが、自分が癌に罹っていることや仕事を続けたいと思っていることを社内の上司や同僚に伝え理解を得ることが、両立の第1歩です。そのために社内相談窓口(担当者)を設けて周知することや、日常のコミュニケーションを通じて話しやすい環境作りを続けることが必要となります。

 

②欠員の補填、業務分担への配慮
癌治療において、特に抗がん剤治療では副作用に個人差があり、人によってはまったく働けなくなってしまうこともありますし、そうでなくとも通院時間の確保のために以前のような働き方ができなくなります。
社内業務の棚卸などを定期的に行い「この人でないとできない仕事」をなるべく減らしていくことで、柔軟に対応できます。

 

③社内制度(休暇・休職制度、就業時間等)の整備
まず、就業規則の休職制度がどのようになっているのか確認してみて、それから本人の希望する働き方と整合性がとれるかどうかを、会社と本人で話し合います。会社ごとに人材確保や財務事情が異なりますから、会社毎に答えを出すしかありませんが、「当社の就業規則では○○になっているから」という通り一辺倒の話だけではなく、治療のための短時間勤務制度や時間単位の有給休暇、在宅勤務制度など、これを機に新たな制度を設けても良いかもしれません。

 

④ 長期休業の際の復職許可の判断
抗がん剤治療の効果により復職が可能となるほどに回復したとしても、長期療養生活により体力は落ちていますし、また薬の副作用による吐き気や手足の痺れなど、個人ごとにできること、できないことが異なります。中小企業においては難しいことかもしれませんが、短時間勤務による慣らし勤務や配置転換などを検討してはいかがでしょうか。そのために、本人が働きやすいように会社が配慮すべき点について、主治医にアドバイスをもらうことも必要です。
その際、個人情報保護の兼ね合いがありますから、主治医に訊きたいこと書面にして、本人を経由して主治医に質問する方法が良いと思います。

 

⑤ 会社の経済的負担
病気療養中でも社会保険料は発生するため、会社負担が大きく圧し掛かってきます(休んで給料額が減っても保険料が月額変更になることはありません)。
就業規則の休職規定はどのように規定されているでしょうか?
中小企業が、大企業の就業規則や厚労省のモデル就業規則を参考にして自社の就業規則を作成した場合、休職制度の内容が「勤続10年以上の者の休職期間は1年間」などと書かれていることがあります。
会社の財政状況と照らし合わせて、1年間社会保険料の会社負担を払い続けることに支障ないのであれば構いませんが、そうでない場合は、妥当な期間がどれくらいなのかを検討し、休職規定の内容を変更する必要があります。(この場合、不利益変更に該当することになりますので、トラブルが起きないように、従業員への事前説明、同意などが必要になります)

 

⑥ 産業医との連携のとり方
〈産業医がいる場合〉
事業所のことをよくわかっている産業医がいる場合は、職場復帰面談を設定して就業における会社側の配慮内容について意見をもらうと良いでしょう。医学的な問題点から就業上必要な配慮への意見を述べてもらい、その意見を参考に就業配慮の内容を決定します。その際、産業医の意見が現実的なものにするために
(1)従業員の面談とともに必ず上司との面談をセットでセッティングする、
(2)就業規則などでわからないことがあったら人事労務担当者が産業医と連絡がとれるようにしておく、
(3)事前に必要な情報は産業医に伝えておく、
といった工夫をしておくとスムーズに進行します。

 

〈産業医がいない場合〉
産業医がいない場合は、主治医に意見を聴取することが一般的です。主治医に現在、本人がおこなっている業務内容を伝え、就業上必要な措置を答えてもらうしかないのですが、多くの場合、主治医との情報のやりとりは容易ではありません。医師には患者情報の守秘義務がありますから
(1)本人同席のもと主治医と面談を行う、
(2)訊きたいこと書面にして、本人を経由して主治医に必要な配慮事項を質問する、
というやり方になるかと思われます。
どちらにしても、本人の健康情報を収集する際には、よほどのことがない限り雇用が継続されることを前提としたうえで、安全に働くにはどうしたらよいかということを医師に相談するスタンスが重要になります。そうでないと、医師は自分の意見を根拠に患者が解雇となることを恐れ、適切な意見を述べないケースも考えられます。

 

⑦ 休職期間中のフォローの仕方
休職期間が終了すれば、復職し勤務する予定なのですから、休職期間中も定期的に本人と会社が連絡を取り合い、会社の状況や本人が担当していた仕事の現状などの情報を伝えておいたほうが、本人は復職に備えて準備ができますし、治療への意欲が高まります。
また、会社側も、休職中の本人の状況や不安を聞くことで、復職に向けて丁寧な対応をすることができます。

 

 

【参考】

厚労省から「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」が公表されています。主治医の意見を求める際の様式も載っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

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