「メンタルヘルス」という言葉は、昨今では「メンタルヘルスの不調(疾患)」や「心の傷」のように、 どちらかと言うとネガティブな言葉として用いられることが多いのですが、欧米では心のポジティブな 面への関心が高まり、その効果などについて様々な研究がなされています。
ポジティブメンタルヘルスは、人々のポジティブな感情や考え方・行動を向上させていくことに眼目が 置かれます。ことに職場のメンタルヘルスは、うつ病対策といった面が中心課題に据えられてしまいま すが、そうした疾病(不調)対策のみならず「どうすれば、より生き生きと、意欲や向上心を持って働 くことができるか」というポジティブな側面に着目し、職場の活性化につなげようとするポジティブメ ンタルヘルスが求められます。
様々な研究の中で、ポジティブな感情や思考は作業効率を向上させたり、幸福感を感じられたりといっ た効果が示されています。
ある実験で、課題を課された披験者は、前もって楽しい本を読むなどの肯定的な感情をインプットされ ている方が、されていない方と比べてより多くの課題をクリアした。あるいは連想ゲームでは、前もっ てポジティブなインプットをされている人の方が反応が迅速だったなどの研究が多数発表されています。
それぞれの研究の完成度には議論の余地はあるものの「幸福だからポジティブになれる」という構図で はなく「ポジティブが呼び込む幸福」がありうるという考え方を強めるに十分な材料です。
前向きで明るく、何だか幸せに近づけそう。そんなイメージを抱かせるポジティブメンタルヘルスは、 とても魅力的で興味をそそられます。しかし一方で、ポジティブ一辺倒への懸念を指摘する声もあります。 苦しみの渦中にあって支援を必要とする人々が切り捨てられたり、偏見を強めることにつながりかねない からです。悩むことが悪いことであるととらえられてしまう恐れもあります。ネガティブな要素を直視す ることによって生まれる、真の心の成長や、他者との深い相互理解、ものごとへの現実的な検討なども人 が生きていく営みの中では非常に重要であると考えます。
大切なのはネガティブとポジティブは常に表裏一体であり、どちらの側面からも人や自己を理解し、より よく生きていくためには有用なアプローチであることを心に留めつつ、ポジティブメンタルヘルスの意義を 理解していくことだと思います。
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