今年入社2年目のある社員より、上司からのパワー・ハラスメントで悩んでいるという相談が持ちかけられました。 |
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詳しい状況を聴かないと判断は難しいですが、当該上司の行為は、仕事上のことであっても、必要な範囲を超えて、いじめになっていると思われます。 職場におけるいじめは、個人的なものであっても、会社にはその具体的な状況に応じて必要な配慮を行うことが求められていますので、会社は相談窓口を設けるなどして対処する必要があります。 |
労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています。使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものです。「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれています。また、「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではありませんが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められています。
労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものです。
労働安全衛生法に基づき、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について規定したものに「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日公示第3号)があります。同指針の中で、メンタルヘルスケアの具体的な進め方について、「職場環境等の把握と改善」として、事業者は、職場環境等の改善に積極的に取り組むとともに、管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等に対し、職場環境等の把握と改善の活動を行いやすい環境を整備するなどの支援を行うものとする旨定めています。また、「メンタルヘルス不調への気づきと対応」として、事業者は、個人情報の保護に十分留意しつつ、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備するものとし、さらに、相談等により把握した情報を基に、労働者に対して必要な配慮を行うこと、必要に応じて産業医や事業場外の医療機関につないでいくことができるネットワークを整備するよう努めるものとする旨定めています。
なお、労働契約法第5条に違反するような行為があった場合、同法には罰則の定めはありませんが、債務不履行責任(民法第415条)、不法行為責任(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)等を追及し、損害賠償を求めることも考えられます。