当社は全国に支店があり、勤務地を限定して地元採用する者以外については、通常、2~3年程度で転居を伴う転勤も発生しています。 |
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採用の際に、特に勤務地の限定の約束がなく、就業規則に「業務上の都合により社員の転勤を命ずることができる」旨の定めがある場合には、労働者は使用者の転勤命令に従わなければならないというのが原則です。 しかし、転勤命令は、労働者の利益に配慮して行うべきものであり、この命令が「権利の濫用」と認められるような場合には無効となります。 裁判例では、①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的による場合、③労働者に通常受忍すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合などに、転勤命令は権利の濫用になると判示しています。(最高裁第二小法廷判決 昭61.7.14 東亜ペイント事件) ご質問の場合は、本人が転勤を拒否する理由が相当性のあるものなのか(私生活に大きな不利益が生じることになるのかどうか)がポイントとなりますので、「家族の事情」の内容をヒアリングし十分話し合って判断してください。 なお、本人に相当な理由が無く転勤命令を拒否するような場合には、他の社員との公平性や適切な人事配置にも影響が出ることも考えられますので、一定の懲戒処分を課すことは可能です。 |
転勤命令は、就業規則などによって会社側に認められるといっても、業務上の必要性と、転勤により労働者が受ける生活上の不利益とを比較し、均衡のとれたものであることが必要です。
一般的には、不当労働行為や差別意思など不当な動機・目的があるケースは別として、転勤命令の有効無効の結論は、労働者が受ける不利益の程度が「通常受忍し難い」と認められるかどうかによって判断されています。
労働者が受ける不利益が受忍すべき程度を著しく超えていないとして判断され、労働者側が敗訴した裁判例として次のものがあります。(最高裁第二小法廷判決 平11.9.17 帝国臓器製薬事件)、(最高裁第三小法廷判決 平12.1.28 ケンウッド事件)。
しかし、病気の家族3人を抱えている労働者に対する転勤命令について、経済的に困窮するだけでなく、転勤によって家族の生活が危機に瀕するおそれがあるとし、これを無効とした裁判例や、家族の介護を理由に転勤命令を無効にした裁判例もあります。(東京地裁判決 昭43.8.31 日本電気事件)、(神戸地裁判決 平17.5.9 ネスレジャパンホールディング事件)。