先日、当社の社員が休日に泥酔して他人の家の塀を壊し、検挙されました。 |
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一般に使用者の懲戒権は、労働者の私生活上の行為にまで及ぶものではありませんが、その行為が企業の円滑な運営に支障を来たす場合や会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、その行為を理由とした懲戒処分ができるとされています。 しかし、懲戒権は、無制限に行使できるものではありません。 使用者が懲戒権を行使するには、その行為の内容、刑の程度、職場での地位、行為と処分の均衡等の諸事情を考慮して、総合的に判断することが求められています。 したがって、今回の行為が、会社の名誉または信用を失墜させたことが客観的に認められる場合には、その範囲において、相応の懲戒処分の対象とすることができると考えられます。 |
1.私生活にも及ぶ使用者の懲戒権
労働者は、労働契約を締結し雇用されることにより、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序遵守義務を負うことになります。そして、使用者は広く企業秩序を維持し企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、懲戒権を行使することができるとされています。
この企業秩序は、通常、労働者の職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持されるものです。しかし、企業は社会的存在ですから、職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の私的な行為であっても、それが企業の秩序(名誉や信用)を損なう場合、使用者は、そのような私的な行為を理由として、労働者に懲戒を課すことができると解されています。
また、使用者が懲戒処分を行う場合の手順は、
① 問題となった行為が就業規則の懲戒事由に該当するか否か調査確認します。
② 就業規則等に本人の弁明手続や懲罰委員会の規定があれば、これらの手続を実行します。
③ 労働組合と協議を行う旨の取り決めがあれば、その協議を行います。
④ 懲戒処分の決定がなされれば、本人に対して処分の通知をします。
となります。
2.判例の状況
① 小田急電鉄事件(東京高裁判決 平15.12.11)においては、鉄道会社の社員が繰り返し行った電車内での痴漢行為につき、被害者に与える影響の大きさや、従事する職務に伴う倫理規範としてそのような行為を決して行ってはならない立場にあることから、社内の処分が懲戒解雇という厳しいものになったとしてもやむを得ないとされた。
② 横浜ゴム事件(最高裁第三小法廷判決 昭45.7.28)においては、夜半ひどく酒に酔って他人の居宅に入り込み、住居侵入罪で逮捕され、それが噂となって広まったことが「会社の体面を著しく汚したとき」に当たるとしてなされた懲戒解雇に関し、受けた刑罰が罰金2,500円程度に止まったことや、職務上の立場が一工員であって指導的立場にないことから、懲戒解雇を無効とした